レスギンの獅子(幕間)

ソーリア、王宮 大陸西岸最大の版図を持つソーリア王国の王宮にしては、パロイ宮殿は少しばかりこじんまりしていた。もちろん住居としては十分すぎる広さだし、王の執政に必要最低限の人数を納めることはできるが、騎士団の閲兵をしようなどと思えば兵士が城…

レスギンの獅子(13)

レスギン砦の城館でもっとも広い場所は城主の食堂になる。そこにこの砦の主立った傭兵隊長たちが顔をそろえていた。末席に座らされたマルクは、そこに居並ぶ7人の傭兵の顔を順に観察して幾日か前に自分が出した結論を再確認した。アンセルを除けば若い者で…

翼のない天使について

「翼のない天使」は、サイバーパンクTRPG『トーキョーNOVA』で私が使っていたキャラクタの女暗殺者の設定から書き起こした小説です。全体的には、「レオン」や「ニキータ」のようなリュック・ベッソン系の影響が非常に強い(と自分では思っている)作品です。…

翼のない天使(表紙)

「カンベ、教えて。」「何をだ?」サラは真剣な眼差しでカンベを見つめた。その瞳の中にはもはや、生への恐れも死へのためらいもない。あるのはただ、隠れもない意志。ただ、この人の側にいたい。「人を、殺す方法を。」 魔都上海。霧に煙る栄光と屈服の町を…

翼のない天使(1)

「弱いから負けるんじゃない。負けた奴が弱いんだ。」 足を引きずった編み上げ髪の少女が、薄汚れた上海の街角を懸命に歩いていた。埃に満ちた空気に響くのは絞り出すような呼吸の音・・・地に落ちる涙は音も立てない。すり切れたジーンズから覗く膝頭には数…

翼のない天使(2)

「悲しい事もある。寂しいこともある。でも、生きているってそういうことでしょ。」 サラ、と名乗った少女が微睡みの縁から再び瞼を上げると、窓の外から日は射し込んでおらず、殺風景な部屋には窓辺のライトスタンドだけが微かに光をともしていた。カンベと…

翼のない天使(3)

「この森は心の森。鏡の如く汝の心を映し出す。」 サラの新生活は、彼女の緊張とはうらはらに、淡々と三日が過ぎた。 カンベの住むコンパートメントは小ぶりの共住アーコロジーで、西に向いた窓からは新上海市街のある許洲島と本土に見える長江の河口が見渡…

翼のない天使(4)

「この世に人種があるとしたら2つだけさ。人殺しと、そうでない奴と。」 膝を抱えてうずくまっていたサラは、コツンという微かな物音に頭を上げた。目の前には誰もいない。ふっと勘の導くままに上を見上げたサラは、一瞬レンズと機械と長く裂けた口とで出来…

翼のない天使(5)

「死ぬのは怖いよ。だけど、生きてゆけないのは、もっと怖いんだ。」 やわらかな臭いがした。香ばしい焼き菓子の臭い。日向の芝生の臭い。せせらぎを流れる木蓮の花びらの臭い。柔らかい母の手の臭い。 足にまとわりつく猫の感触にわたしは思わず笑みを漏ら…

Black Daughterについて

「Black Daughter」は、友人とロボ小説ものシェアードワールドアンソロジーをやろうと企画して、企画倒れに終わったものです。いや、企画倒れと言っても友人の作品はいい出来だったんですけどね。私がすぐ飽きるもので……orz 背景は、環境破壊が進み、経済の…

Black Daughter(表紙)

私は目を疑った。まるで鏡を見るように、濃い霧の向こう側に浮かび上がったシルエットは、間違いなく『黒』、私の機体のものだった。だけど、幻ではない。私の耳には確かなブザー音が聞こえていた。そして、警告メッセージ。 『Unknown target. Rader Locked…

Black Daughter(1) Return form the Dark

BS-COS ver.9.01.2472 Visual Comm Disable .... .... No Geen Data Secure Mode /*/*/....% % login canal password = *******access denide password = *******access denide password = *******BS-COS Secure Mode .....Ready% % su canal ******* % cp /…

Black Daughter(用語解説)

Black Daughter 用語解説 アサルトフレーム Assault Frame , AF 広義には5mを越える多関節戦闘兵器の総称。狭義には人型戦闘兵器を指す。その多くは15m級の人型戦闘兵器であり、二脚以上の擬肢とマニュピレータ、戦闘用の固定武装や外部兵装、機動用のスラス…

春夢譚について

和風異世界召還ファンタジー最強主人公小説を書こうとして挫折したもの。 現実世界から召還された主人公が、制御の難しい最強呪文「力の言葉」と現代の知識を駆使して戦乱の異世界を征服していく話……を予定していました。しかも18禁ハーレムもの。 いろいろ…

春夢譚(1)

一体全体、何でまたこんな事になったんだろかい。 胸の中でつぶやいて、ため息をついてみる。すすに汚れた木の天井。宿屋の一室。 視線を落とすと胸元に黒い毛の固まりが乗っかっている。しかも二つ。 すーすーとかすかな寝息。これまた二つ。 脇腹にふにふ…

春夢譚 設定メモ

渡り この世界(名称未定)に、他の世界の一部が取り込まれる現象。取り込まれる大きさは、最小で数百メートル四方、最大で数百キロメートル四方程度。世界を囲む《障壁》に接する形で、混沌の海に出現する。 渡りは、数年に一度起こる。他の世界から切り出…

烏たちの憂鬱について

「烏たちの憂鬱」は、ずいぶん昔にTRPGサークル内の会誌に載せるリレー小説用に書いたもの。当時まだ大学生だった私と高校生だった友人の二人で交代交替に話を書いていったのだが、そもそもSFという括りだったにもかかわらず、いきなり妖精宇宙とか魔術師だ…

烏たちの憂鬱(1)

空は青かった。限り無く青かった。 『青い空なんか嫌いだ』 月並みな台詞を呟いてみたが、あいも変わらぬ憂欝な授業は続いていた。『妖精界物理学』。二言目には「不確定性」、三言目には「カオスそのもの」・・・不可解なモノを前にして子供がだだをこねて…

来栖川HM物語(偽) について

Leaf/aquaplusのゲーム「toHeart」の二次創作/三次創作を書こうとしてまとめた設定。結局、話として書くことがないままお蔵入り。 設定自体は非常に楽しく作ったのだが、それをストーリーに展開する段になるととたんにモチベーションが落ちるから不思議なも…

来栖川HM物語(偽) 設定

タイトル未定 ・来栖川でHMなものがたり。 ・設定資料風の内容は基本的にでっち上げなので、この話以外では通用しない。 ・ツッコミどころ満載でイタイ内容なのは承知の上なので、ツッコミ不可。・人物 主人公:城築 玲一(キヅキ レイイチ) 孤独な青年富…

来栖川HM物語(偽) 設定2

沿革情報 PNNCシリーズプロセッサ 来栖川電工の開発した超並列処理演算神経網コンピュータ(Parallel Neural Network Computer)。実際には基礎理論設計を電工側(2研及び7研)が担当し、詳細設計と開発はメトセラ・ディベロップメント社が担当した。…

運命の銃声は三度響くについて

以前、別名義でとある場所に書いた小説の断片をこちらに移転して安置します。 ハードボイルド風無国籍ガンアクションを書きたかったのだが、思わせぶりな書き出しにもかかわらず本筋を全く考えていなかったためわずか2話で断念。 もし続きを書くとしてもリ…

運命の銃声は三度響く(1)

この町に足を踏み入れるのは、たぶん二年ぶりだと思う。 辺りには相変わらず濃い霧が立ちこめているし、コートにまとわりつく湿った空気のにおいは港からの潮の香りをかすかに含んでいる。港町独特の夜の静寂。熱のひいた流行病の患者のような、気怠い沈黙。…

運命の銃声は三度響く(2)

琥珀色のバーボンを、ちびちびと喉に流し込んでいく。鼻孔へ抜ける香りと、胸元を灼くアルコール。 トムが来るまで、まだしばらくかかりそうだ。カウンターの向こうでは、マシューが渋い顔でグラスを磨いている。そこだけ全く時間が流れていないような、記憶…

タイトル未定(GS美神二次創作)について

こちらの作品は、読んで字のごとく『GS美神極楽大作戦』の二次創作作品で、以前「ナデシコ以外の小説を語るスレッドのまとめページ」さんにお預かりいただいたものです。続きを書く気満々だったのですが、ご多分に漏れず断念してしまいました。 全体の構想自…

タイトル未定(GS美神二次創作)(1)

「……法務省長官は正式にこの申請を受理したとのことで、それを受けて各界の交流は新たな段階に進むものと期待されています。 次のニュースです。国連の認可シンクタンク、財団法人超常オカルト現象総合研究所の理事であり日本支部長の横島忠夫氏(22)が、先日…

「うちにおいでよ」について

某GS美神二次創作の大手サイトさんの投稿掲示板に別名義で書き込ませていただいた作品。 ヒャクメがヒロインの、ちょっとイタもの青春恋愛風味18禁もあるでよ、という世にも変わった一作を目指していたものの、生活環境の変化などあって頓挫。10話程度のこぢ…

うちにおいでよ(1)

「あー、くそ。降ってきやがった。」 フルフェイスのヘルメットの中で呟くと、吐き出した息でシールドが一瞬曇った。 透明なプラスチックの向こうには黒々とした雲がたれ込めていて、見る間に数を増やした水滴が視界のあちこちで弾けた。 単車のタイヤが伝え…

柳生新次郎・幻界行について

ふと思い立って、戦国時代の武士が異世界で大暴れする活劇ものでも書こうと思ってでっち上げたもの。割と続きは書きたいしネタもあるのだけれど、あんまり時間がないのでひとまず安置。他の作品と随分被ってるし。 設定だけ書いておくと、主人公は柳生新次郎…

柳生新次郎・幻界行(1)

草原を風が吹き渡る。 見渡す限り一面に丈の高い草が生い茂り、その草色の海をただひたすらに続く街道。すれ違う者とて希な交易路を、一人の男がのんびりと馬の背に揺られていた。その馬の足下を一頭の犬と思しき影が付き従う。 その向かう先は西。馬は恐ろ…