Black Daughter(1) Return form the Dark

BS-COS ver.9.01.2472
Visual Comm Disable
....
....
No Geen Data
Secure Mode /*/*/....

%
% login canal
password = *******

access denide
password = *******

access denide
password = *******

BS-COS Secure Mode .....Ready

%
% su canal *******
% cp /usr/password.cnf /local/usr/canal/
% atach 3022.403.216.1.1.1.1.1 >& password.cnf admin

BySquare Inc. Global Hosting Service
Protected Kernel 42.251% used.
.....Ready

% cl Japan EEUC

BS-COS 日本語モード バージョン 7.25.2470
> 音声認識モード
音声認識モード 開始

 滅多に使わないコンソールモードに戸惑いながらも、わたしは何とかコマンドを打ち込んだ。昔、ミドルスクール時代にコンピュータを専攻した時期があったおかげか、キーボードを前にしても思ったほど困らなかった。ただ、撃墜されたときにHMDにも損傷があったのか、時々ノイズが走って画面が全く見えなくなる。3度目にノイズで画面が乱れた後、頭に来てHMDを切ってしまった。
 HMDを切ると自分の置かれた状態がよくわかる。半壊したコクピットにパネルいっぱいのアラーム。どれもこれも真っ赤。よくこれだけ壊れて自分が生きているものだと思うが、ヴァンダル-2、特にHSSシリーズはパイロットの生存率が高いと言われている。それだけの値段はしたのだから当然だけれど。問題といえば、買って一回目の出撃で不意打ちを食らった事だ。見たことのない四脚タイプが2機にヴァンダル系のAFが3機。味方は6機だったが初撃で2機やられた。気がついたら四つ足2機相手に大立ち回り。両方ともこっちがやられる前にたたき落してやったけど、結局は道連れにされた。ん?わたしが道連れにしたのかな。まぁ、どっちでも同じだ。早い話が相打ち。新品のヴァンダル2をぶち壊されたわたしにしてみれば、とてもじゃないが勘定に合うはずがない。おまけにパイロットは私と同じ4thランカーだから、ポイントだって大してあがりゃしない。生き残ったのが幸運だと素直には喜べない。機体を無くして貯金のない4thランクの女傭兵なんて、スポンサーも付かないしリースも利かない。中古でも新しい機体を手に入れる目途があるなら別だが、そうでもなければ廃業して娼婦にでも鞍替えした方がまだましだ。もし、敵の機体からあのログメモリを見つけられなければ、傭兵なんて稼業はとっくにあきらめていたに違いない。
 生き残ったのがラッキーかどうかはすぐにわかる。BySqareの特権ユーザアカウント。何故こんなモノを4thランカー風情が持っているのかは謎だが、ともあれ、体を売らなくてすむくらいのネタは見つかるかも知れない。もしかしたら、新しい機体分くらいのネタになるかも。
 システムに入ってみて驚いたのは、このアクセスコードは本物の管理者アカウントのモノだった。ただ、管理者の参照用アカウントで、書き込めるのは限られた領域みたいだった。覗きが目的の私には全然かまわなかったけど。
 とりあえず、デフォルトのファイルエリアから覗いてみる。ほとんどは画像とHSSの戦闘ログデータ。どうも、例の四つ足の戦闘データをここに残していたみたいだ。機体の登録自体のデータもある。ざっと見たところ、新型器の実戦テストのデータ収集のようだけど・・・。何か奇妙だ。戦闘ログを見ると、4thランカーが乗っていたはずなのに2ndの上位ランカーを落としている記録がある。どう考えても、この戦績なら4thランカーでいること自体がおかしい。大体、新型器のテストデータを取るだけなら、何で天下のBySquareがわざわざ特権アカウントなんて与えてるんだろう?
 ログメモリのデータコネクションログを見てみる。どうやら、もう一つ参照しているエリアがあるみたいだ。そっちを見てみると、いくつかのアーカイブファイルセットが置いてあった。とりあえずデータを落としておいて、他のファイルも見てみる。いくつかのデータファイルらしきモノの後、ヴィジュアルファイルが見つかった。再生を指示して、再度HMDを作動させる。
 どこかの格納庫の映像。画面の前には背広を着てメガネをかけた平凡そうな男。バックには私が撃墜したのと同じような四つ足のAF。カラーリングは違うけど。
「今回はアリゾナに行ってもらう。リンゲル鉱床の利権争いでTakenakaとAqura間で戦闘状態になっている。そこでテストを続行してくれ。」
なるほどね。自分たちの戦場がテストに使われていたことには別に怒りはない。撃墜されたのは頭に来るけど。とにかく、こいつがBySquareのテスト責任者って訳だ。映像は更に続いていく。
「例の奴もそこに現れるはずだ。できれば、奴相手のデータも欲しい。雑魚の相手にかまけて前回みたいに見失うなよ、レイン。」
レイン?ああ、そうか。四つ足のパイロットのデータを見ながら確認する。4thランカー、アーノルド・ファーメル・レイン。37歳。正確にはAFパーソナルランクで25,286位。私より10,000位以上は上だけど、他のAF乗りを雑魚呼ばわりできるほどの腕とは思えない。駆け出しの私とは違う。戦歴はかなりあるけど、11年以上傭兵をやっていてこのランキングって事は大したことはないはずだけど。
「奴、もしくは奴らが現れたら、可能な限り撃墜ないしは捕獲して欲しい。あれのデータが欲しい。君の腕ならできるはずだ。」
君の腕なら、ね。なら、それを撃破した私の腕も大したモノって訳だ。自信持っていいかもね。アーノルド・レイン、あんたが3rd以上なら良かったのに。
「それと、これはパーマーからだ。『報酬は君の要求通り振り込んで置いた。620,000NE。20,000は部長からのボーナスだ。』だそうだ。報告はいつも通りに頼む。特に、システムの調子はきちんと意見を聞きたい。では、また。」
画像が終わった。・・・620,000NE!?指折り数える。1NEが大体60HY。37,200,000HY・・・。ヴァンダル-2のHSSモデル29S、つまり、この壊れた機体を新品で2機買ってお釣りが来る。そのお釣りで、Aquraのウェポンパックに、SEGUのプラズマライフルに、Lexusのボールドシールド、割引付きなら長船の斬鉄も買えるかも・・・。
 はっと我に返る。その金ってもしかして・・・。データを片っ端から検索していく。あった。セキュリティー付きのコピー不可ファイル。セキュリティータイプは「BTB」、BankTradeBinary。属性は・・・NoUser、つまり無記名。
「・・・ふふ。・・・あはは。・・・くくく。」
思わず笑みがこぼれる。
「・・・んー、ラッキー!!!」
手早くファイルをデータカートリッジに落とし込む。これで、次の機体が買える・・・いや、うまく使えば何年か遊んで暮らせる。警告で赤く染まったパネルをばんばん叩いて、思いっきり笑った。ミスター・レイン、感謝するわ。
 そのとき、HMDに別の映像が映る。どうやら、コンソールを叩いた拍子にさっきの参照エリアのデータを偶然再生してしまったらしい。

 荒い画像に流れるのは戦闘の風景。何機かのAFが激しく機動しながら撃ち合っている。突然、目の前の機体が爆発しはじけ飛ぶ。それを手始めに目の前の機体が次々と破壊されていく。カメラの向きが変わってそこに写ったのは、砂塵の中に霞む黒いAF。見たことのないシルエット。その機体が近づいてくる。そして・・・
「Connection lost. Terminated from Host.」
接続が切れた。呆然とする私の耳に、続けざまにCOSからの警告が響く。
「未確認の機体接近中。総数7機。すべてAFです。」
HMDに映像が出る。ノイズに邪魔されて見えないが、おそらくはどこかの部隊が近づいてくるのだろう。味方にしろ、敵軍にしろ、おあつらえ向きに迎えが来た。メーデーを発信して・・・。
「機体照会中。・・・照会中。・・・照会中。」
おかしい。機体はぼろぼろでも、COS自体にはシステムエラーは無かったはずだ。ってことは、この区域の機体ではない・・・、いや、登録自体が無い?
 7機のAFは接近してくる。その機体には・・・部隊マークがない。重装備のキャメロン2機にタイフーン5機。全部BySquareの機体だ・・・。
『やばい!』
心のどこかが叫び声を上げる。サバイバルパックをひっつかむと、コクピットから飛び出す。先頭のキャメロンがランチャーからミサイルを発射するのが一瞬見えた。必死で走る私の後ろで、爆発。吹き飛ばされて転がる私の目には、数時間前まで新品だった愛機の破片が一瞬だけ映った。
『やっぱり、アンラッキーだったかな。これで、お終いか。』
そう思いながら霞んでいく視界には爆炎と、サンドイエローのAFのシルエット。そして、

・・・フェードアウト





「大丈夫ですか?」
照りつけるアリゾナの太陽。眩しくて目を細めると、誰かのシルエットが映る。私の顔をのぞき込んでいる人。声は若い男。逆光で顔がよく見えない。
「だれ?」
しわがれた声しか出ない。のどが渇いていることに気付いた。のどがいがらっぽい。
「良かった。気が付きましたね。」
男は顔を少し離した。端正だけどちょっと間抜けっぽい童顔。トウモロコシの毛みたいな金髪。緑色の瞳。白い肌。年は私よりかなり若い。
「誰?」
もう一回問いかける。さっきより声は多少ましだったかも。
「死んだかと思いましたよ。何とか助かったみたいですね。運がいい人です、あなたは。」
「だから、誰?あんた。」
私はちょっといらついた声で、三度問いかける。体をゆっくりと起こしてみる。体のあちこちがぎしぎしと痛みを送ってくる。
「僕はアレク。アレク・ボールドウィン。あなたは?」
「カオル。カオル・ミナヅキ。」
そういって顔を上げる。そして、気付いた。すぐ側にAFが一機。8機のAFの残骸をバックに、真っ黒なその機体のシルエットが浮かび上がる。
「アレは・・・」
呆然と見上げる私の顔を見て、アレクと名乗った男は笑みを漏らした。よほど間抜けな顔をしていたのだろう。
「『黒』。そう、人は呼んでいます。」
『黒』。その名は全くもって正しいだろう。私の目に映るその機体は、圧倒的な威圧感で辺りを睥睨していた。他の形容詞はその姿の前に無意味に等しい。私は理解した。これが、『奴』なのだと。

「よろしく。カオル・ミナヅキさん。」
その声に答えず、私はただ、その機体を見上げていた。