Black Daughter(表紙)

 私は目を疑った。まるで鏡を見るように、濃い霧の向こう側に浮かび上がったシルエットは、間違いなく『黒』、私の機体のものだった。だけど、幻ではない。私の耳には確かなブザー音が聞こえていた。そして、警告メッセージ。
『Unknown target. Rader Locked・・・Rader Locked・・・』
「アレク・・・あれ、何?」
情けないことに、自分の声が震えているのが分かる。
「『黒』ですね。・・・あれは、4番機『Wednesday』です。」
「・・・なんだって・・・」
また声が震えている。今度は怒りで。
「わたしは一度もそんなこと聞いちゃいないわよ!!どういうことよっ!!」
「『黒』は元々7機あるんですよ。何機現存するかは知りませんけど。言いませんでした?」
「聞いてないっていってるでしょ!!」

胸がむかむかする。どうしてこいつはこうなんだろう。
「ああ、それはすみませんでした。では簡単にお話ししましょう。『黒』は予備機を含めて7機分あったんです。それぞれ別の場所で最終整備をやったので機体ごとにちょこっとずつ形が違うんです。だから、よく見れば何号機だか分かるんですよ。あ、ちなみにあなたの機体は・・・」
「うっさい!あれは敵なの!?味方なの!?どっち!!」
そう叫んだ私の目の前で、その『黒』は消えた。ただ本能だけがその位置を追っていた。
『後ろっ!』
相手の『黒』と私の『黒』。交差する瞬間、耳がちりちりするような感じが走って、カンだけで防御する。衝撃が走り、私の『黒』が一瞬揺らぐ。もう一機の『黒』の剣は背中のアクティブバインダーで辛くも止まっていた。
「こ・の・や・ろー!」
私の思考に『黒』が反応する。剣をリリースして右腕がそれをつかむ。振り向きざまにその『黒』に打ちかかる・・・。だけど、その動きは途中で止まった。
「よかった。無人機ではないようね。」
その声は聞き覚えのある声だった。




 駆け出しのAF乗り、カオル・ミナヅキは、謎の四脚AFとの戦闘で機体を失った直後、一機のAFに遭遇する。その機体の名は『黒』。戦場に吹く死の風。偶然のいたずらかそれとも宿命なのか、カオルは『黒』に乗り込む。
 『黒』を狙う巨大企業BySquareとの戦闘、そして、次々に姿を現す『黒』の乗り手達。鋼鉄の巨人が繰り返す炎の饗宴の果てに見えるのは、過去の清算なのか、それとも、未来への希望なのか。