1987-12-01から1ヶ月間の記事一覧

翼のない天使について

「翼のない天使」は、サイバーパンクTRPG『トーキョーNOVA』で私が使っていたキャラクタの女暗殺者の設定から書き起こした小説です。全体的には、「レオン」や「ニキータ」のようなリュック・ベッソン系の影響が非常に強い(と自分では思っている)作品です。…

翼のない天使(表紙)

「カンベ、教えて。」「何をだ?」サラは真剣な眼差しでカンベを見つめた。その瞳の中にはもはや、生への恐れも死へのためらいもない。あるのはただ、隠れもない意志。ただ、この人の側にいたい。「人を、殺す方法を。」 魔都上海。霧に煙る栄光と屈服の町を…

翼のない天使(1)

「弱いから負けるんじゃない。負けた奴が弱いんだ。」 足を引きずった編み上げ髪の少女が、薄汚れた上海の街角を懸命に歩いていた。埃に満ちた空気に響くのは絞り出すような呼吸の音・・・地に落ちる涙は音も立てない。すり切れたジーンズから覗く膝頭には数…

翼のない天使(2)

「悲しい事もある。寂しいこともある。でも、生きているってそういうことでしょ。」 サラ、と名乗った少女が微睡みの縁から再び瞼を上げると、窓の外から日は射し込んでおらず、殺風景な部屋には窓辺のライトスタンドだけが微かに光をともしていた。カンベと…

翼のない天使(3)

「この森は心の森。鏡の如く汝の心を映し出す。」 サラの新生活は、彼女の緊張とはうらはらに、淡々と三日が過ぎた。 カンベの住むコンパートメントは小ぶりの共住アーコロジーで、西に向いた窓からは新上海市街のある許洲島と本土に見える長江の河口が見渡…

翼のない天使(4)

「この世に人種があるとしたら2つだけさ。人殺しと、そうでない奴と。」 膝を抱えてうずくまっていたサラは、コツンという微かな物音に頭を上げた。目の前には誰もいない。ふっと勘の導くままに上を見上げたサラは、一瞬レンズと機械と長く裂けた口とで出来…

翼のない天使(5)

「死ぬのは怖いよ。だけど、生きてゆけないのは、もっと怖いんだ。」 やわらかな臭いがした。香ばしい焼き菓子の臭い。日向の芝生の臭い。せせらぎを流れる木蓮の花びらの臭い。柔らかい母の手の臭い。 足にまとわりつく猫の感触にわたしは思わず笑みを漏ら…