1988-12-01から1ヶ月間の記事一覧

レスギンの獅子について

「レスギンの獅子」は、「ジルフィンの指輪」と同じ主人公、マルク・レヴィス・グラムソーティスの登場するファンタジー小説です。背景世界は、中世末期〜ルネサンス期程度の文明を持ったファンタジー世界ですが、異種族や魔法などは比較的控えめに設定して…

レスギンの獅子(承前)

砦の中には乾いた飢えとすえた恐怖の臭いが立ちこめていた。もはやお馴染みになったその臭いにたじろぐこともなく、青年はゆっくりと連射弩に太矢を詰め直し、伸びてきた顎髭をうっとうしそうに二三度掻いた。銃眼から砦の外を見やると、城壁の下からは砦の…

レスギンの獅子(1)

レスギン砦は大グラム山脈の最南端を背にして聳えている。その偉容は、ラタール・イシャー・マイソミアの3地方をなんとも不遜な眼差しで睥睨していた。眼下に広がるイシャーとラタールにまたがる丘陵地帯は、鬱蒼とした木々に覆われて緑の波を描き、その先…

レスギンの獅子(2)

マルクが王都ソーリアを旅立ったのは、年が明け、新年の大聖祭で都市中が賑わっている最中だった。黒衣の宰相・ラタス伯の命令は謎めいたもので、ラタールである人物に内密に接触し一通の封書を手渡せというものだった。宰相の名高い『眠り獅子』が鑞に刻印…

レスギンの獅子(3)

密使はマルクと幾分も年齢の違わない、若い女性だった。マルク自身も勅使などと言う堅苦しい役目が似合うとは思えなかったが、ルミエラ=フィエス=ガリアンテと名乗ったこの美しい女性ほど密使と言う無粋な言葉が似合わない人はいなかった。姓名を聞いて、…

レスギンの獅子(4)

公女の申し出を断ってからしばらくのあいだ、ラドビクは事ある毎にマルクに喰ってかかり、一日中マルクに聞こえるように愚痴った。彼曰く、世の中には礼を知らない騎士がいるだの、心のない石ころが自分の主査正騎士だなんて不公平だの、とにかくこの世の不…

レスギンの獅子(5)

家令はマルクとラドビクに続きの客間をあてがった。二人は荷物を運び入れて貰うと、普段着に戻って早速砦の中を見て回ることにした。もっともラドビクは、数刻を経ないうちにたちまち飽きてしまった。 「ラドビク、この砦を守備するとしたら兵が何人必要だと…

レスギンの獅子(6)

レスギン砦での第一日目はマルクにとって満足のいくものとは言えなかった。夕食は一応城の騎士達と一緒にとったが、食事の不味さもさることながらラタール人騎士達の愚劣さには心底腹が立った。 「ソロスの騎士殿はなかなかの男前ですな。さぞや女どもを泣か…

レスギンの獅子(7)

マルクの客間にラドビクが飛び込んできたのはそれから二刻も過ぎて、窓の端に西日が差し込みはじめる頃だった。 「ソーティス卿!何をやらかしたんですか、一体!」 半ば怯え顔のラドビクは続き部屋の扉を慎重に続けると小声でまくしたてた。 「いま、城代の…

レスギンの獅子(8)

夜半過ぎの客室からの眺めには、四方の木々の影の中にあまたの篝火が見えた。マルクはその篝火の数を概算した。兵の数は三千を下らないだろう。おそらくは四千を超える兵がいると考えて間違いない。敵の正体は判然としていなかったが、これだけの兵を派遣す…

レスギンの獅子(9)

「そ、その・・・ソーティス卿。話はご理解いただけたかと思いますが・・・・。」 マルクは表情を変えずに城代の揺るぎがちな瞳を見据え続けた。城の会見の間には城代の他にダハルとリノンの二人の騎士と数人の従者がいるだけだった。入り口を数人の兵士が固…

レスギンの獅子(10)

「おおいっ!一体何のつもりだてめぇらっ!!」 準備を済ませたマルクが馬を歩ませながら城門に近づくと、二百名を越える兵がごった返していた。その向こうからはパーボの怒鳴り声が聞こえてきた。マルクは集団から離れて並んでいるアンセルとモランを見つけ…

レスギンの獅子(11)

レスギン砦は南ラタールを覆うエセルの森林の外縁に位置する。レスギン砦の眼前で森は草原に姿を変え、西に大地を登り進むに連れて岩砂漠へと姿を変えていく。砦から出た一団は森に沿って進み、粛々と草原の中に迂回して配置についた。夜半過ぎ、闇の中に下…

レスギンの獅子(12)

陣営の中はだいぶ混乱していた。今夜の奇襲が効いているのだろうが、二人は人目に触れる事無く潜入することが出来た。マルクは必要に迫られてこの手の潜入を何度もした事があるので、いわばお手の物だったが、キャラはそれ以上に手慣れていた。マルクを普通…

レスギンの獅子(幕間)

ソーリア、王宮 大陸西岸最大の版図を持つソーリア王国の王宮にしては、パロイ宮殿は少しばかりこじんまりしていた。もちろん住居としては十分すぎる広さだし、王の執政に必要最低限の人数を納めることはできるが、騎士団の閲兵をしようなどと思えば兵士が城…

レスギンの獅子(13)

レスギン砦の城館でもっとも広い場所は城主の食堂になる。そこにこの砦の主立った傭兵隊長たちが顔をそろえていた。末席に座らされたマルクは、そこに居並ぶ7人の傭兵の顔を順に観察して幾日か前に自分が出した結論を再確認した。アンセルを除けば若い者で…