運命の銃声は三度響く(1)

 この町に足を踏み入れるのは、たぶん二年ぶりだと思う。

 辺りには相変わらず濃い霧が立ちこめているし、コートにまとわりつく湿った空気のにおいは港からの潮の香りをかすかに含んでいる。港町独特の夜の静寂。熱のひいた流行病の患者のような、気怠い沈黙。そこは紛れもなく、私が育ち、恋をし、友に裏切られ、そして一度は捨てた故郷。

 古びた石造りの駅の改札口を出ると、そこには、私を待ちかまえる人影が二つ。知った顔と、知らない顔。

「久しぶりだな。もうその顔は二度と拝めないものだと思っていたが。」

そういって皮肉げに笑う男。トマス・カテール。かつての相棒、そして、恋人。

「私だって、戻ってきたかった訳じゃない。」

自分の口から漏れた声は、驚くほど未練がましかった。ふっと、視線を逸らして唇をかむ。その仕草が、自分自身をさらに苛立たせた。

「なぁ、トムのおっさん。その女、ほんとに例の女なのか?俺にはちょっとそうは見えねんだがな。だいたい、こんな若くていい女が……」

さっきからにやついて私の体を眺めていた若い方の男ののどに、瞬きする間に銃口が突きつけられる。左手に握ったブローニングHP。前と同じ、2年前と変わらない。

「おまえを連れてきたのは、ロヴェールからヤマを踏ませとくよう言われてるからだ。邪魔をさせるためじゃない。」

若い男が唾を飲み込んで、一度うなずく。トムは、鼻で息を一度すると銃をしまった。

「最近の若い奴らは躾が出来てなくてな。リジェが死んで質が下がった。」

苛ついた表情には、やはり私と顔を合わせる気まずさが見え隠れする。当然だ。彼は悪くないとはいえ、私がこの町を追い出された原因に彼も無関係ではない。

「立ち話も何だ。とりあえずなんか飲もうや。」

トムがそういって手招きした瞬間、霧の中に鈍い銃声がした。間を置かずに、鈍い衝突音。若い男がその場にくずおれるのを横目に、トムと私は手近な石のベンチを目指して走る。二度三度、銃弾が空気を切り裂く音が聞こえたが、四度目の弾は私の隠れたベンチに火花をあげた。

NATO弾?」

辺りを伺いながらブローニングを構えるトムに訊く。目は相手の射点を追い、手は手元のケースから銃を取りだしている。

「ああ。M700かなんかだろ。」

トムの声に舌打ちしながら、銃を取り出して構える。

「げ。P90かよ。」

「なに?相手がスナイパーだって聞いていれば、もう少しマシなの持ってきたわよ。」

また一度、銃弾がベンチに火花をあげる。どうやら、相手からはこちらが見えているようだ。だが、こちらからは霧で視認できない。

「援護するから、先に下がって。はぐれたら、マシューの店で。」

「わかった。……アイリーン、ようこそシアトルへ。」

私が、奇形のSMGを乱射すると、トムの背中が飛び出していく。あの夏の日と同じように。私の頬に浮かんだ笑みは、苦かった。